博士の愛した数式

連載の仕事は先週ですべて終わったため、今日は原稿を気にせず1日を過ごした。締め切りを気にしない週末を過ごすのはかれこれ1年ぶりである。

しばらくの間、ずっと会社の仕事と連載の執筆で手一杯で、通勤電車で読書をする余裕もなかったため、少し落ち着いた気分になれる小説を読みたくなった。そこで読んだのが『博士の愛した数式』である。

博士の愛した数式 (新潮文庫)

博士の愛した数式 (新潮文庫)

自分はどちらかというと、こういうフワッとした小説は好みでない。しかし、この本はとてもよかった。物悲しい状況設定でありながら、暖かい気分になれるちょっと変わった話である。ストーリーや登場人物の味わいの深さに加えて、数学や往年の野球選手の話も楽しめた。『ダ・ビンチ・コード』もそうだったが、いくつかの題材を複合的に取り上げるのは、最近の小説の流行りなのだろうか。

しかし同じ文章といっても、自分が書いているような論説文系の文章と小説ではずいぶん違うものである。論説文で重要なのは、伝えたいメッセージや解説したい事柄を明確に表現することである。そのためには、論旨の展開がわかるように接続詞を多めに使い、文章表現を簡潔にする。多少のジョーク程度なら許されるだろうが、風景や心象の細かい描写は書かない。しかし小説では、まるで絵画を描くように、言葉を使って登場人物の行動や心理、風景を描写することが重要なようである。自分は絵を描くのが下手だが、そういう文章を書くのも苦手である。とはいえ、決して無機質な人間ではないつもりなんだけどね。