言葉で書くな!

UMLモデリングの本質 (日経ITプロフェッショナルBOOKS)
先週のパターンワーキンググループの総会後に懇親会があった。エクサの児玉さん(『UMLモデリングの本質』の著者)ともずいぶん久しぶりに飲んで話をした。最近でも時々メールでやり取りしていたので、それほどご無沙汰している感覚はなかったが、実際には最後にお会いしてからもう2〜3年経っている。そういえば『リファクタリング』の翻訳の時も、連絡はすべてメーリングリストだけで行い、4人集まっての打ち合わせや飲み会は一切やらなかった。そういう芸当ができる今は便利な世の中なんだろうが、ちょっと味気ない気もする。

さてその席で、児玉さんが興味を持たれている本の話を伺った。タイトルも内容も忘れてしまったが、右脳で絵を描くことをテーマにした本だったと思う。なぜ忘れてしまったかというと、その本の一節があまりに衝撃的だったからである。

その一節とは「言葉で書くな!」である。

これを聞いたときは、思わずのけぞってしまった。何しろ筆者は「言葉で書くな」と「言葉で書いている」のである。主張は「言葉を使わずに、図を使え」ということらしいが、その主張を貫きたいなら、その主張も図で描くのが筋だろう。

しかし、あとから思い直してみると、自分も同様のことをやっていたのに気づいた。過去に何度かUMLの必要性や有効性を説く文章を書いたことがあるが、そこではいつも「言葉によるコミュニケーションは曖昧だからUMLを使う」とやってきた。しかし本当に「言葉が曖昧」なら、その文章自体も曖昧なはずである。だとしたら「言葉が曖昧」と言っても、本当は厳密かも知れないではないか。

今さらながらこの一件で、言葉の偉大さを実感した。だって言葉は、それ自体が曖昧であることまで表現できてしまうのである。実にすごい道具だ。だから堂々と「言葉で書くな!」とやってしまおう。いくら言葉の曖昧さや限界を嘆いたとしても、その嘆きを表現するにはやっぱり言葉を使うのが一番のはずだから。


(2005/6/12追記)
脳の右側で描け脳の右側で描けワークブック上記の本は、『脳の右側で描け』というタイトルだったことが判明しました。姉妹本に『脳の右側で描けワークブック』もあるようです。